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2024年04月28日(月)

議員辞職勧告反対討論

品川区議会議員の松本ときひろです。

去る4月23日、本会議で中塚亮議員に対する議員辞職勧告決議案が上程されました。

 

議員提出第2号議案 中塚亮議員に対する議員辞職勧告決議

 

私は、この議案対して反対討論を行いました。

ハラスメントを行った議員に対する議員辞職勧告になぜ反対なのか

一見理解し難いと思いますので、反対討論全文を掲載いたします。

要約すると

・議員という民主主義における立場の性質

・適正手続き保障上の問題

・事実認定上の問題

です。

 

品川区議会では決議文を除き、本件に関する調査報告書は区民に示されていません。

政治倫理審査会を経て勧告を行っている他自治体での例と比較していただければ幸いです。

白河市議会:「白河市議会政治倫理審査会の審査結果について」

市原市議会:「政治倫理基準違反審査の請求に係る審査結果」

 

私としても、ハラスメントを許容する考えはありません。

また被害者の方には誠に申し訳なく思います。

ですが、本件の問題点を指摘することなく全会一致で可決してしまえば

本件が前例となり、場合によっては悪意ある勧告決議がなされかねません。

今後は、政治倫理条例等の制定を提言して参ります。

 

以下、反対討論全文です。

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議員提出第2号議案に対し、品川区議会日本維新の会を代表し、反対の立場で討論いたします。長文となりますが、議員の身分という民主主義の根幹に関わる問題ですので、ご容赦いただきければと思います。

まず、被害に遭われた方に心からのお見舞いを申し上げます。また、言葉による性暴力が許されないことは、私達品川区議会日本維新の会としても同じ考えであります。

一方、一議員として中塚亮議員の行為を批判、糾弾することと、議会として議員辞職勧告決議案を議決することとは同列に論じることはできません。本議案に対する具体的な検討に入る前に、そもそも議員辞職勧告決議がいかなる性質を持つのかを考える必要があります。

区議会議員は、選挙によって有権者の信託を受け選ばれた立場です。議員としての適否については、選挙によって有権者の審判を受けるのが間接民主制の根幹であり、選挙以外の方法によって議員の身分を奪う仕組みは極めて限定的な場合に限られるべきです。また、議会において議員の身分を剥奪することが許容される場合も、議会には有権者に対して重い説明責任が課されると考えるべきです。そうでなければ、議会の多数派による特定議員の恣意的な排除が可能となり、多数派による専横を許すことにもなりかねません

この点、地方自治法は、懲罰の事由を、地方自治法並びに会議規則及び委員会に関する条例に違反した場合、すなわち議場または議会における議員の言動に限定しています。また、有権者による解職制度が定められているのも、こうした間接民主制における議員の身分に対する見解を支えるものといえます。

以上のように、議員たる身分の剥奪については極めて慎重な取扱いをすべきです。もっとも、本件議案は議員辞職の勧告に留まり、可決された場合も法的効力を有するものではありません。したがって、直接議員の身分を剥奪する場合のような慎重性、厳密性は不要であるとの見解もあり得るところです。しかし、私達はこうした見解は却って議会の権威を軽んじるものと考えます。

議会は、条例その他議案を議決する公権力の担い手です。また、地方自治法に基づき、議員を除名する権限を有しております。さらに、首長に対する辞職勧告決議は、裁判例において、議会解散の根拠となる地方自治法第178条第1項所定の不信任の議決に包含されると判断されております。最高裁においても、政治倫理審査会を経た警告や辞職勧告等について、そうした措置を受け、審査会の審査結果を公表されることによって、議員の政治的立場への影響を通じて議員活動の自由についての事実上の制約が生ずることがあり得ると述べられています。たとえば、選挙の直前に、議会の多数派によって、特定の議員に対し一方的に議員辞職勧告決議がなされ、その事実が流布された場合、極めて強い効果が生じ得ることはご理解いただけるのではないかと思います。

このような議会の公権力性や勧告が持つ効果に鑑みれば、法的効力を伴わないからといって軽く扱うことはできません。特に、注意喚起や非難決議等に留まらず、議会として、議員たる身分を辞することを求める、すなわち議員として不適格との評価を行うのであれば、除名を求める場合と同程度の熟議・熟考がなされてしかるべきと考えます。したがって、仮に議員辞職勧告を行うとしても、その決議は極めて慎重になされるべきと考えますがいかがでしょうか。また、決議がなされる場合は、有権者に対していかなる事実をもって議員辞職相当と判断したのか明確に述べられていることも肝要と考えますがいかがでしょうか。

以上を踏まえ、本件議案を検討すると、当会派としては適正手続き保障及び事実認定の観点から本件議案を可決することには重大な問題があると考えます。以下、具体的な理由を述べます。

まず、適正手続き保障の観点から述べます。

そもそも、当区議会においては、議員辞職勧告を根拠付ける法令が定められておりません。この点は、決議案において掲げられている法令が、中塚亮議員の行為時には存在しなかった「ジェンダー平等と性の多様性を尊重し合う社会を実現するための条例」に留まっていることからも明らかでしょう。他の地方議会においては、政治倫理条例や議員基本条例を定め、その中に議員辞職勧告の根拠となる条項や手続きを定めている例が少なくありません。しかし、当区においてはこうした条例等がありません。法的効力を伴わない勧告とはいえ、前述の議員辞職勧告の性質に鑑みれば、これは重大な問題と言わざるを得ません。

次に、審査手続きです。本件に関する中塚亮議員に対する事実の確認は、議会運営委員会の場で行われたのではなく、令和6年2月8日に会派・無所属議員の代表による聴取及び質疑の場で行われました。しかし、これはあくまで任意の場であるため、議事録もありません。また、客観的資料に基づき確認が行われたわけでもありません。前述の議員辞職勧告の性質に鑑みれば、これは重大な問題と言わざるを得ません。他の地方議会においては、政治倫理審査会や特別委員会が設置され、その中で調査等を行っているものも少なくありません。この点について、被害者特定の懸念が挙げられるかもしれませんが、たとえば地方自治法上の秘密会とし被害者のプライバシーを守る手段を講じつつ公的な審査手続きを採ることも可能であったはずです。

さらに、中塚亮議員に対する弁明機会の提供も十全とは言い難いといえます。本件では、中塚亮議員が不在の場でも日本共産党品川区議団による本件事案の説明がなされており、中塚亮議員にとって弁明の対象、防御の対象が明確ではありませんでした。この点については、たとえば、日本共産党品川区地区委員会が中塚亮議員を党から除籍していることから、被害者からの聞き取りも行い、それを踏まえた事実認定を行い、処分の決定がなされていると思われるところ、当該事実認定が記載された書面を、被害者特定事項をマスキングした上で議会に提出し、当該事実認定について中塚亮議員に対し認めるか否か確認を求めることも可能であったはずです。このような手段であれば、弁明の対象は明確になったはずです。しかし、こうした書面は本件では提出されておりません。これに対して、中塚亮議員が加害の事実を全て認めているから良いではないかとの見解もあり得るところですが、自白事件の冤罪が存在することは良く知られるところであり、本件が事実に基づかないと申し上げる趣旨では決してありませんが、「加害の事実を全て」といったときの「全て」に含まれる事実の範囲について認識の相違が生じ得る懸念がある以上、弁明機会の提供を軽視してはならないと当会派としては考えます。この点は、決議案において弁明の機会あるいはそれに類する表現がなされていないことからも、本件において弁明の機会が重視されていないのではないかと危惧するところです。特に本件は、所属していた政党から除籍された議員について、所属していた政党等が議員辞職勧告決議を求めている事案であり、適正手続き保障の重要性について議員の皆様には改めて考えていただきたいところであります。

次に、事実認定の点です。ある行為について何らかの措置を検討しようとする場合、具体的な事実が認定できなければ当該行為に対する評価はできず、また、講ぜられるべき措置の軽重、相当性判断ができません。この点、本件では言葉による性暴力、セクシャルハラスメントが問題となっていることが事実認定の問題を複雑にしています。たとえば、無免許運転であれば、運転免許を受けないで運転していれば無免許運転と評価できます。一方で、言葉の暴力、セクシャルハラスメントに対する措置については、総合考慮が必要になります。

一般に、セクシャルハラスメントとは、「相手の意に反する性的言動」を指すとされています。この定義のみであれば主観的要素が含まれるものの、認定自体は複雑ではありません。しかし、相手方の意に反する性的言動が違法性を帯びるか否かの判断については、行為者の地位、両者のそれまでの関係、言動の反復・継続性、被害女性の対応等が問題になります。

また、組織における懲戒処分についても、たとえば人事院の「懲戒処分の指針について」に依れば、セクシャルハラスメントが免職、停職、減給、戒告のいずれの処分に相当するかについて、影響力利用の有無、繰り返しの有無、精神的被害の程度等が問題になります。このような不法行為や懲戒処分の相当性判断の過程に鑑みれば、注意喚起や非難決議等に留まらず、議員たる身分を辞することを求める、すなわち議員として不適格との評価を議会として行うのであれば、意に反する性的言動の存在に留まらず、個人情報に配慮しつつ、議員としての影響力利用の有無や行為の繰り返しの有無、従前の関係等を明らかにすることが必要となります。

以上を踏まえ、本件について検討すると、本件では、中塚亮議員が、「特定の人に対してわいせつな言葉による性暴力、セクシャルハラスメント行為を繰り返したこと」が問題となっていますが、具体的な事実については決議案に明記されていません。本件は、刑事訴訟や民事訴訟が提起され判決が確定した事案ではなく、事実の認定は議会において行うことになります。しかしながら、本件における議会による事実の確認は、被害者から直接提出された資料によって行われたわけではありません。たとえばメッセージアプリの画像や診断書等も提出されていません。被害者側の証拠資料として私達がアクセスできたのは、日本共産党品川区議団からもたらされた間接的な情報、伝聞情報にすぎないのです。そして、それらの情報についても前述の相当性判断を行うための考慮要素との関係では明確とは言い難い状況です。この点について、確かに中塚亮議員に対して聴取及び質疑は行われています。これによって中塚亮議員から発された言葉自体については認定可能と考えますが、やはり前述の相当性判断を行うための考慮要素について明確になったとはいえません。議員には高度な倫理性が求められることからすれば、同じ行為を行ったとしても私人と比べ非難の程度が強まることについては私達も見解を同じくするところでありますが、さりとて措置の相当性を判断するための考慮要素について事実認定ができない状況では、一議員として中塚亮議員の行為を批判する想いはあれど議員辞職が相当か判断することは困難です。

勿論、被害者の特定につながり得る懸念には当然配慮せねばなりません。また、被害の申告が困難になることがあってはならないと私達も考えます。しかし、繰り返しになりますが、本件は被害者からの申告はあくまでも日本共産党品川区議団を介してもたらされたものに留まっており、客観的資料にも乏しい事案です。被害者の個人情報に配慮した上で客観的資料を提出することも可能であったのではないかと考えますが、そうしたことはなされていません。本件における具体的な内容については、日本共産党品川区議団からも配慮を求められているため深入りできませんが、区議会の皆様におかれましては、同種事案において他の地方議会の政治倫理審査会等で証拠資料に基づき行われた事実認定の程度と本件決議案作成の過程で提供された情報から可能な事実認定の程度の相違についてどうか比較していただきたいと考えます。

なお、本件における事実認定に対する提出者側の曖昧な認識、姿勢の問題は決議案文自体にも表れているのではないかと考えます。本決議案は、議員辞職を相当とする理由として、「区民の信託を受けた議員として自覚を著しく欠いた行為の責任の重さ」を挙げています。では、いかなる行為が自覚を著しく欠いているのかというと、その特定が曖昧です。日本共産党品川地区委員会が中塚亮議員を除籍にした理由は、「中塚亮議員が特定の人に対してわいせつな言葉による性暴力、セクシャルハラスメント行為を繰り返したこと」及び「党から議員辞職を求められたが受け入れなかったこと」です。これは明瞭です。他方、決議案は、日本共産党品川地区委員会の声明を引用しつつ、中塚亮議員が特定の人に対してわいせつな言葉による性暴力、セクシャルハラスメント行為を繰り返したことを事実として明確に認定しているかというと曖昧で、「自ら行為を認めておきながら」と中塚亮議員の認識に言及するに留まり、言葉による性暴力が繰り返し行われたかについては認定していないとも読めます。では、どういった行為を問題視しているかというと、前述のジェンダー条例の審議を取り上げ中塚亮議員が「議案を審査、賛成している。自らの行為を認めておきながら、議員を続けることは明らかに自己矛盾」と述べています。これでは、ジェンダー条例に賛成したにもかかわらず、議員を続けていることが「議員として自覚を著しく欠いた行為」であるかのように読めてしまいます。つまり、実際に行われた行為、被害の程度等について議会としては事実認定しないが、本人が認め自己矛盾だから議員辞職相当だ、との読み方も可能なのです。勿論そうした見解もあり得るところですが、議員辞職を相当と評価する上で、本当にそうした解釈、態度でよいのでしょうか。また、総合考慮なのだという見解かもしれませんが、そうだとしても、議会としてどういった事実を認定し、総合的に考慮したのかを明確にする必要があるはずで、その点においても本決議案には欠缺があると考えます。

以上が、当会派が本件議案に反対する理由です。繰り返しになりますが、言葉による性暴力は許されないものです。また、当会派における本件議案の賛否の検討においては、会派所属議員は、いずれも一議員としては中塚亮議員の行為を批判する想いを有するため結論に至るまでに長大な時間を要しました。被害者の方には意に沿えない結論となり誠に申し訳ない限りです。しかし、議員辞職勧告決議という事柄の性質、そこから導かれる審査密度を踏まえた適正手続き保障及び事実認定の観点から、本件議案には賛成しかねます。区議会の皆様にもおかれましても今一度議員という身分の民主主義における意義等を熟慮・熟考していただきますようお願い申し上げます。また、本件を踏まえ、当区議会における政治倫理条例又は議員基本条例の不存在がもたらす弊害についてもご理解いただけたのではないかと思いますので、それらの制定に向けて議会を挙げて共に行動することをご提案申し上げます

以上を持ちまして議員提出第2号議案に対する品川区議会日本維新の会の反対討論とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。